​[残留:051] 泥濘に沈む独裁者の夢:サダム・フセインの巨大ヨット「アル・マンスール号」

LOCATION: SHATT AL-ARAB RIVER, BASRA, IRAQ
COORDINATES: 30.5262, 47.8403
OBJECT: PRESIDENTIAL YACHT “AL-MANSUR”
STATUS: WRECKED / ABANDONED SINCE 2003

イラク南部、大河ティグリスとユーフラテスが合流し、ペルシャ湾へと注ぐシャットゥルアラブ川。その茶色く濁った水のただ中に、全長120メートルを超える巨大な「白い亡霊」が横たわっている。かつてイラクを絶対的な恐怖と権力で支配した独裁者、サダム・フセイン。その彼が所有していた大統領専用豪華ヨット「アル・マンスール号(Al-Mansur)」の無惨な成れの果てだ。

宇宙から観測する「独裁の終わり」

以下のマップは、ご指摘いただいた正確な座標に基づいた公式データだ。川のほぼ中央、白く巨大なシルエットが「アル・マンスール号」である。個人のページではなく、Googleの地図システムそのものが捉えた「歴史の残骸」を確認してほしい。

※通信環境やGoogleの仕様により、埋め込みマップが表示されない、あるいは低解像度になる場合があります。その際は以下の正確な座標を検索窓に貼り付けるか、直接リンクをご利用ください。
30.5262, 47.8403
Googleマップ公式で「アル・マンスール号」を直接観測

この船は2003年のイラク戦争時、米軍による空爆を受けて炎上・転覆した。それから20年以上、一度も引き上げられることなく、歴史の証人としてこの場所に留まり続けている。

管理者(当サイト)の考察:地図上の「静止した時間」

世界を俯瞰するGoogleマップにおいて、この座標だけが2003年から時間が止まっているように見えます。周囲の街並みが復興し、変化していく中で、この巨大な鉄の塊だけがその場所に固執し、朽ち果てていく。それは単なる「廃船」ではなく、一つの時代が強制的に終了させられたことを示す、物理的な「ピリオド」なのです。

私たちが指先でズームし、その船体を確認するとき、画面越しに伝わってくるのは「権力の無常」という圧倒的な事実です。かつて誰も近づくことが許されなかった大統領の聖域が、今は航空写真で誰にでも暴かれ、魚の住処となっている。この残酷なまでの対比こそが、本カテゴリー【残留する記憶】の核心です。

栄華と没落の記録

「アル・マンスール号」は単なる船ではなかった。1982年、フィンランドの造船所で極秘裏に建造されたこのヨットは、サダム・フセインという男が抱いていた「海への野望」の結晶であった。当時、イラクはイラン・イラク戦争の最中にあったが、フセインはこの豪華客船に巨額の国家予算を投じた。その船内には金メッキの調度品、秘密の脱出経路、防弾ガラス、そして有事の際の大統領指揮所が完備されていた。

しかし、フセイン本人がこの船で過ごした時間は極めて短い。彼は常に暗殺を恐れ、宮殿から宮殿へと移動を繰り返していたからだ。豪華な客室は主(あるじ)を失ったまま、ペルシャ湾の波に揺られていた。そして2003年、運命の日が訪れる。米軍の空爆機がバスラの上空に現れたとき、この「動く宮殿」は、逃げ場のない巨大な標的へと変わった。

現在、船は完全に横倒しになり、引き潮の時にはその巨大な腹部が泥の上に露出する。現地の漁師たちは、この廃船の影で網を投げ、子供たちは錆びた鉄板を足場にして川へ飛び込む。かつての恐怖の象徴は、皮肉にもバスラの日常の一部へと溶け込んでいる。しかし、その背景にある「戦争」という事実は、地図上のこの座標から消えることはない。

【関連・根拠リンク】
ロイター通信:サダム・フセインのヨットの現状(英文)。
Reuters: Saddam’s yacht today
断片番号:046
(残留する記憶:013)
記録終了:2026/02/12

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