​「本記録における地図上の座標ピンは、広域表示の便宜上、対象の周辺地点を指し示している場合があります。現地の厳密な位置特定を保証するものではありません。」
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【進入禁止区域:128】ブルジュ・アル・ババス — トルコの未完成高級住宅街

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LOCATION: MUDURNU, BOLU PROVINCE, TURKEY
COORDINATES: 40.446° N, 31.200° E
STATUS: ABANDONED CONSTRUCTION SITE / GHOST TOWN
KEYWORD: “BURJ AL BABAS”, DISNEY-STYLE CASTLES, REAL ESTATE COLLAPSE

トルコ北西部、ボルの山深い盆地に、正気を疑うような光景が広がっている。座標 40.446, 31.200。そこに整然と並ぶのは、まるでおとぎ話の「ディズニー城」をコピー&ペーストしたかのような、数百棟に及ぶ尖塔付きの邸宅群である。その名も「ブルジュ・アル・ババス(Burj Al Babas)」。かつて、中東の富裕層をターゲットにした世界屈指の高級リゾート地になるはずだったこの場所は、現在、一人の住民もいない巨大な廃墟の群れとして、静かに風化の時を待っている。

この光景は、もはや建築の失敗という枠組みを超え、人類の虚栄心が生み出した「現代のバベルの塔」としての趣を帯びている。なぜこれほどまでの規模の計画が頓挫したのか。そして、なぜ周囲の景観から浮き上がった「同じ形の城」でなければならなかったのか。本アーカイブでは、この未完の楽園が辿った数奇な運命を多角的に観測し、記録する。

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観測記録:盆地に沈む「均一なる城郭」の不気味

以下の航空写真およびストリートビューを確認してほしい。この地域を俯瞰すると、自然豊かなボルの山々に抱かれるようにして、灰色の尖塔を持つ白い城が、軍隊の整列のごとく並んでいるのがわかる。座標 40.446, 31.200 付近。未完成のまま放置された個々の住宅は、窓ガラスが嵌められず、内部はコンクリートが剥き出しのままである。特にストリートビューで敷地内を観測すると、その視覚的なリフレイン(繰り返される同一の形状)が、観測者に強い「不気味の谷」のような感覚を与えるはずだ。

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【進入禁止区域】虚栄が築き、破産が止めた悪夢

ブルジュ・アル・ババスの建設が始まったのは2014年のことである。開発を主導したのは、トルコの建設会社サロット・グループ(Sarot Group)。彼らの構想は壮大だった。この地にある天然の温泉資源を活用し、732棟の「ミニ・シャトー(小城)」を建設。さらにショッピングセンター、モスク、温泉施設、映画館、スポーツ施設を網羅した、世界中の富裕層が憧れる究極の高級リゾートを作り上げるはずだったのである。

ターゲットは主にクウェート、サウジアラビア、カタールといった湾岸諸国の富裕層。一棟あたり40万ドルから50万ドルという高額で販売が開始され、実際に350棟ほどが契約済みだったという。しかし、2018年にトルコの経済危機が直撃。リラの下落、インフレの上昇、そして湾岸諸国の投資家たちの資金引き揚げが重なり、サロット・グループは2700万ドルの負債を抱えて破産宣告を受けるに至った。結果として、建設の進捗率が80%を超えていたにもかかわらず、工事は突如として停止。以来、この場所は「時が止まった街」となったのである。

繰り返される尖塔の意味

なぜ、これほどまでに同一の形状にこだわったのか。通常、高級住宅街であれば、各邸宅には個性やバリエーションが求められる。しかし、ブルジュ・アル・ババスにおいては、効率的な大量生産と「おとぎ話のような世界観」の構築を優先した結果、このようなコピー&ペースト的な街並みが誕生した。これが完成していたならば、中東の王族たちが同じデザインの家で温泉を楽しむという、奇妙なユートピアが実現していたのかもしれない。しかし未完の今、それは整然と並ぶ「墓標」のようにしか見えない。

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当サイトの考察:廃墟となった「理想郷」の社会的価値

■ 考察:ブルジュ・アル・ババスが問いかけるもの

ブルジュ・アル・ババスは、単なる不動産投資の失敗例ではない。それは、グローバル資本主義が自然環境や現地の文脈を無視して強引に作り出そうとした「人工的異空間」の末路を象徴している。本来、トルコのムドゥルヌ(Mudurnu)という街は、ユネスコの世界遺産暫定リストにも名を連ねる、オスマン帝国時代の美しい街並みを残す歴史地区である。そのすぐ側に、全く脈絡のないディズニー風の城郭都市を作ろうとしたこと自体が、ある種の「文化的な傲慢」であったとの批判も強い。

現在、この場所はYouTubeやInstagramを通じて、世界的に有名な「インスタ映えするゴーストタウン」へと変質している。本来の目的である「居住」や「リゾート」としての価値は失われたが、「失敗のモニュメント」としての観光価値が皮肉にも生まれている。人類が作り上げた壮大な「無駄」を観測すること。それ自体が、現代社会における一つのエンターテインメント、あるいは反面教師的な教育価値となっている点は極めて興味深い。

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【⚠ 渡航注意事項】観測者へのガイダンス

ブルジュ・アル・ババスは、一部の観光客や冒険家たちの間で注目を集めているが、ここは観光地として整備された場所ではない。訪問を検討する観測者は、以下の事項を徹底して遵守されたい。

■ アクセス方法:

* 主要都市からのルート:トルコ最大の都市イスタンブールから、車(レンタカー等)で約3時間半から4時間。アンカラからも同程度の時間がかかる。公共交通機関は限られており、ムドゥルヌ(Mudurnu)の街まで長距離バスで移動し、そこからタクシーを利用するのが現実的である。
* 道路状況:ムドゥルヌ周辺は山岳地帯であり、特に冬期は積雪や凍結の恐れがある。4WD車の利用が望ましい。

【⚠ 渡航注意事項】

不法侵入の禁止:
敷地全体は私有地であり、原則として建物内部への立ち入りは禁止されている。建物の多くは未完成で構造的に不安定であり、落下物や崩落の危険が伴う。外周道路からの観測に留めること。

管理状況の変動:
現在は管理人が常駐している場合もあり、許可なくドローンを飛ばす、あるいは敷地内に深く侵入しようとすると、治安当局へ通報される可能性がある。

野生動物への警戒:
周辺は山林に囲まれており、野犬や野生動物に遭遇するリスクがある。一人での無謀な深追いは厳禁である。
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【未完の記録】再開発の兆しと、失われた時間

2019年以降、サロット・グループは資産を売却し、建設を再開させる動きを見せているという報道も一部にある。しかし、世界を襲ったパンデミックや、その後の世界経済のさらなる混乱により、完全な完成への道のりは依然として不透明なままである。たとえ完成したとしても、この「不気味な城の群れ」を、かつてのように高級リゾートとして受け入れる市場が残っているのかという疑問は拭えない。

  • 2014年:野心的な計画と共に着工。
  • 2016年:トルコの政情不安と経済の停滞が影を落とす。
  • 2018年:裁判所により破産宣告。工事が全面ストップ。
  • 現在:世界で最も有名な「高級住宅廃墟」として、インターネット上でその姿を晒し続けている。
【観測者への補足:根拠先リンク】
ブルジュ・アル・ババスの最新の経済状況や建築的背景については、以下のリソースを参照されたい。
Reference: The Guardian – Fate of Burj Al Babas
Reference: Atlas Obscura – Burj Al Babas Ghost Town
【観測終了】
座標 40.446, 31.200。そこにあるのは、かつて誰かが夢見た「幸福の鋳型」である。しかし、魂を入れ忘れた城郭は、ただ静かに朽ちていくのみ。この異様な幾何学模様を、人類の過信の記録としてアーカイブの「進入禁止区域」の項に永続的に保存する。

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