COORDINATES: 34.30917, 132.99333
STATUS: HISTORIC SITE / RABBIT SANCTUARY / FORMER SECRET MILITARY ZONE
KEYWORD: “POISON GAS ISLAND”, THE ISLAND ERASED FROM MAPS, LEPINUS CONICULUS
瀬戸内海の穏やかな波間に浮かぶ、周囲約4.3キロメートルの小島。現在、この島は世界中から観光客が訪れる「ウサギの楽園」として知られている。数百羽の野生のウサギたちが駆け寄り、愛くるしい姿を見せるその光景は、一見すれば平和そのものだ。しかし、この島にはかつて、国家規模で隠蔽された凄惨な闇が存在した。戦時中、この島は「地図から消された島」として一般人の立ち入りが厳しく禁じられ、極秘裏に大量の毒ガス兵器が製造されていたのである。
ここを【残留する記憶】としてアーカイブするのは、かつての殺戮兵器製造の遺構と、生命力の象徴であるウサギたちが、あまりにも奇妙なバランスで同居しているからだ。剥き出しのコンクリート、廃墟となった発電所、そして黒ずんだ毒ガス貯蔵庫の跡。それらは、数千人もの動員学徒や労働者が健康を害し、戦場に撒かれた毒が数多の命を奪った事実を今も無言で突きつける。「負の記憶」は、ウサギたちの愛くるしい影に隠れながら、確実にこの土壌に沈殿しているのだ。
観測記録:廃墟の森を埋め尽くす「白き影」
以下の航空写真を確認してほしい。広島県竹原市忠海町の沖合に位置するこの島は、全域が休暇村として整備されているが、海岸線や森の随所には、明らかにレジャー施設とは異なる無骨な建造物の屋根が見て取れるはずだ。発電所跡、毒ガス貯蔵庫、砲台跡。これらはすべて戦時中の軍事施設である。ユーザーはストリートビュー(特に島の北側に位置する発電所跡付近)を観測してほしい。蔦に覆われた巨大な廃墟の足元で、ウサギたちが戯れる異様なコントラストが、あなたの認識を揺さぶるだろう。
※大久野島。かつての毒ガス製造拠点。現在は全島が国立公園に指定されている。
COORDINATES: 34.30917, 132.99333
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【残留する記憶】化学兵器と「地図からの抹消」
1929年(昭和4年)から終戦にかけて、大久野島は陸軍によって毒ガス製造の秘密拠点とされた。その実態を隠蔽するために取られた手段は徹底していた。
- 白紙の地図:軍機保護法に基づき、大久野島は地図上から抹消された。瀬戸内海の地図には島があるべき場所に何もなく、ただ海面が描かれていた。列車が島の対岸を通過する際には、窓のカーテンを閉めることが強制されるほどの徹底ぶりだった。
- 毒ガスの霧:ここで製造されていたのは「マスタードガス(きい剤)」や「ルイサイト(ちゃ剤)」といった、皮膚を爛れさせ、肺を焼く劇物であった。不十分な防護装備で作業に従事させられた少年少女や労働者たちは、慢性的な呼吸器疾患や皮膚病に生涯苦しむこととなった。
- 放置された記憶:戦後、毒ガスはGHQの立ち会いのもとで処分されたとされるが、島の一部では今も土壌汚染の懸念が語られ、立ち入りが制限されている区画が点在する。廃墟の影には、当時の苦しみが今も沈殿している。
「うさぎの島」への転生
現在島を占拠するウサギたちのルーツについては、戦時中の毒ガス検知用の実験個体の生き残りという説が根強く語られたが、公式には「戦後に小学校で飼われていた8羽が放されたもの」とされている。しかし、かつて「死」を生産していた土地が、現在は「生」を愛でる場所として再生しているという事実は、あまりにも皮肉な救済のように感じられる。
当サイトの考察:タブーを包み込む「可愛さ」の装置
大久野島を訪れる者の多くは、まずウサギたちの愛くるしさに心を奪われます。しかし、島を一周歩けば必ず目に飛び込んでくる、暗く冷たい廃墟群。この島は、人間が犯した「直視し難いタブー」を、ウサギという圧倒的な「愛らしさ」で包み込んでいる巨大な装置のようにも見えます。
ウサギがいるからこそ、人々はこの島を訪れ、図らずも毒ガスの歴史に触れることになる。「忘却」を食い止めるために、自然がこの島にウサギを遣わしたのではないか――そんな錯覚すら覚えるほど、この地のコントラストは強烈です。大久野島は、私たちの歴史における「光と影」を同時に観測できる、世界でも稀有な座標なのです。
【⚠ 渡航注意事項】島への上陸を試みる観測者へ
大久野島は現在、国立公園およびレジャー施設として非常に快適に管理されているが、その特殊な背景を理解した行動が求められる。
* 起点:JR呉線「忠海(ただのうみ)駅」。
* 手段:駅から徒歩約7分の「忠海港」より休暇村客船またはフェリーに乗船し、約15分。
【⚠ 渡航注意事項】
ウサギへの配慮:
ウサギは野生であり、噛まれると感染症のリスクがある。抱き上げたり追い回したりする行為は厳禁である。また、ウサギの健康を害する人間用の食べ物を与えないこと。
遺構への立ち入り:
毒ガス貯蔵庫跡や発電所跡などの廃墟は老朽化が進んでおり、崩落の危険がある。柵で囲われた区域への進入は絶対に避けること。また、島の一部には今も土壌汚染の調査や管理が行われている区域がある。
歴史への敬意:
毒ガス資料館を訪れる際は、そこが単なる観光施設ではなく、多くの犠牲者の記憶を留める場所であることを認識し、静粛に行動すること。
【プラスの側面】楽園としての「大久野島」
悲劇の記憶を内包しつつも、現在の島は癒やしに満ちた場所となっている。
- 大久野島毒ガス資料館:平和学習の拠点。島の「真実」を知るために避けては通れない場所であり、多くの遺品や資料が静かに過去を語っている。
- 休暇村 大久野島:島内唯一の宿泊施設。瀬戸内海の絶品料理や温泉を楽しむことができ、夜には星空とウサギたちの気配を感じることができる。
- サイクリングと散策:島を一周する道路は整備されており、心地よい海風を感じながら歴史遺構と自然を巡ることができる。
最新のフェリー運行状況や毒ガス資料館の開館情報については、以下を参照せよ。
Reference: 休暇村大久野島 公式サイト
Reference: 竹原市公式サイト – 大久野島毒ガス資料館
座標 34.30917, 132.99333。大久野島。かつて「死の霧」に覆われ、地図から消えた島。現在はウサギたちが平和に暮らすその地面の下には、今も当時の歴史が重く、冷たく横たわっている。あなたがこの島でウサギと触れ合うとき、ふと廃墟の窓から漂う「消された過去」の視線を感じるかもしれない。その二面性こそが、この島が語り続ける「平和」の本当の意味なのかもしれない。

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