LOCATION: IZU ISLANDS SOUTH SECTOR, JAPAN
COORDINATES: 31.8876842, 139.9172978
STATUS: ACTIVE VOLCANIC ZONE / PROHIBITED AREA
八丈島から南へ約160キロ、青ヶ島からさらに南へ65キロ。そこには、地図上の広大な空白を埋める「点」に過ぎない岩礁群がある。「ベヨネース列岩」である。標高わずか10メートルほど、最大でも数十メートル四方の小さな岩が数個、荒れ狂う太平洋の波濤に洗われている。1846年、フランスの軍艦「ベヨネース号」によって発見されたこの地は、それ以来、数々の船舶にとっての脅威であり、同時に日本の国家権益を支える排他的経済水域(EEZ)の重要な基点となってきた。ここは、海底火山の山頂がわずかに海面に指を出しただけの、不安定極まりない【進入禁止区域】である。
空から観測する「虚無の中の特異点」
以下の航空写真を観測せよ。周囲には文字通り何もない。数千メートル級の深海から立ち上がるベヨネース海底火山の、ほんの一欠片が白波の中に浮かんでいる。航空写真モードでズームアウトすれば、伊豆・小笠原弧という巨大な海底山脈がいかに孤独なものであるかが理解できるだろう。また、この岩礁のすぐ東側には、1952年に大爆発を起こし、調査船「第五明神丸」の乗組員全員の命を奪った悲劇の海底火山「明神礁」が潜んでいる。衛星画像に映る深い紺碧の海面下には、今この瞬間もマグマを蓄えた巨大なエネルギーが眠っているのだ。
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明神礁の悲劇:自然が放つ「拒絶の意志」
ベヨネース列岩を語る上で、隣接する海底火山「明神礁」との関係は切り離せない。1952年(昭和27年)、明神礁の活動が活発化し、新島が出現したという報告を受けて調査に向かった海上保安庁の測量船「第五明神丸」は、消息を絶った。
後に発見されたのは、火山の噴出物によって無残に破壊された船体の破片のみであった。乗組員31名全員が、突如として発生した海底火山の爆発に巻き込まれたのである。この悲劇以来、ベヨネース列岩および明神礁周辺は、海保によって常に監視される「危険海域」となった。
ベヨネース列岩自体は現在、安定した岩礁として海面上に留まっているが、地質学的には極めて脆弱な存在である。ひとたび大規模な噴火が発生すれば、この岩礁が海面下へ没し、あるいは新たな島が誕生するという劇的な変化が起こり得る。ここはまさに、日本という国の領土が「現在進行形」で生成・消滅を繰り返している、最前線なのである。
当サイトの考察:EEZを支える「静かなる防人」
この小さな岩礁が、日本の排他的経済水域(EEZ)を維持するために果たしている役割は計り知れません。もしもこの岩が波に削られ、あるいは噴火によって崩壊し、海面下に隠れて「低潮高地」となってしまえば、日本が主張できる海域は大幅に縮小するリスクを孕んでいます。
私たちは普段、日本の輪郭を地図上の線として認識していますが、その輪郭を規定しているのは、こうした絶海に踏みとどまる、文字通り「命がけ」の岩々なのです。
一般人は立ち入ることさえ許されず、ヘリコプターや観測船によってのみ存在を確かめられるこの場所は、国家の守護者でありながら、誰からも忘れられたかのように孤独です。この座標が放つ警告イエローの輝きは、この星の内部から湧き出す熱いマグマと、領土という抽象的な概念を物理的に繋ぎ止める「重み」そのものなのです。
【周辺施設と紹介:到達不可能な風景】
この海域に「周辺施設」などという概念は存在しない。あるのはただ、荒れ狂う海と、空と、海面下の活動だけである。
明神礁(Myojin-sho):
ベヨネース列岩の東約10kmにある海底カルデラ。海面には現れていないが、水深わずか数十メートルまで火口が迫っており、頻繁に変色水が観測される。
須美寿島(Smith Island):
ベヨネース列岩からさらに北に位置する高さ136メートルの孤立した岩。ベヨネース列岩と同様、海底火山の山頂部である。
青ヶ島(Aogashima):
最も近い有人島。ここからさらに南下した場所にベヨネース列岩があるが、定期航路はなく、漁船ですらこの海域に近づく際は厳重な警戒が必要となる。
■ 産業・学術的側面:
深海資源の調査:
この海域の周辺には、海底熱水鉱床などの存在が期待されており、学術調査船による定期的な観測が行われている。
海図の基点:
海上保安庁による精密な測量が行われ、日本の海域を確定させるためのデータが日々蓄積されている。
【アクセス情報】禁じられた聖域
一般の観光客がこの場所を訪れる手段は、物理的にも法律的にも存在しないと言ってよい。
公式な手段:
・一般の渡航は不可能。海上保安庁や気象庁、海洋研究開発機構(JAMSTEC)などの調査船、あるいは報道機関のヘリコプターのみが、その姿を捉えることができる。
付近の移動:
・八丈島から青ヶ島までは連絡船またはヘリコプター(愛らんどシャトル)があるが、そこから南へは公共交通機関は一切存在しない。
噴火警戒情報:
この海域は海底火山の活動状況により、海上保安庁から「航行警報」が出されることが頻繁にある。噴火の兆候がある際、海面が白く濁る(変色水)ことがあり、これは有毒ガスや突然の爆発の危険を示す。周辺海域への接近は命に関わる危険を伴う。
上陸禁止:
垂直に切り立った岩礁であり、接岸できる施設は一切ない。また、EEZの基点としての重要性、および火山活動の危険性から、学術的・公的な目的以外での上陸は認められていない。
環境保護:
周辺は渡り鳥の休息地となることもあるが、人間の持ち込んだ菌や外来種が脆弱な生態系を破壊する恐れがあるため、厳重に管理されている。
情報のアーカイブ:関連リンク
- 気象庁 ベヨネース列岩・明神礁: 火山活動の履歴と現在の警戒状況。
Reference: 気象庁 海域火山データベース - 海上保安庁 海洋情報部: 日本の海域を支える島々の管理・測量データ。
Reference: 海上保安庁 海域火山情報
断片の総括
ベヨネース列岩。座標 31.8876, 139.9172。そこは、私たちが当たり前のように享受している「日本」という枠組みを、その最果てで支えている孤独な杭である。人知れず荒波に耐え、時に海面下からの炎に身を焼かれながら、それはただ黙々と絶海に佇んでいる。私たちが衛星画像を通じてこの黒い点を確認するとき、それは単なる岩の記録を見ているのではない。この星が今もなお生き、蠢き、その熱を海に逃がしながら、新しい領土の輪郭を模索しているという「鼓動」そのものを観測しているのである。この禁じられた座標が語るのは、自然の圧倒的な拒絶と、それに対峙し続ける人間の意志のアーカイブである。
(進入禁止区域:054)
記録更新:2026/02/20

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