​本記録における地図上の座標ピンは、広域表示の便宜上、現地の厳密な位置特定を保証するものではありません。航空写真でしか覗けない立ち入り禁止区域の神秘や、ストリートビューで刻々と変わる景色を楽しみ、心惹かれた場所へはぜひ実際に足を運んでいただきたいため、あえて画像を使わず周辺座標の提示に留めています。この記録が、あなたの**『まだ見ぬ世界』との出会い**になれば幸いです。
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【残留する記憶:381】アル・ファウ宮殿 — 水上に浮かぶフセインの「勝利」という名の虚像と、占領の記憶

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OBJECT: AL-FAW PALACE (THE WATER PALACE)
LOCATION: CAMP VICTORY COMPLEX, BAGHDAD, IRAQ
COORDINATES: 33.2843038, 44.2560679
STATUS: FORMER PRESIDENTIAL PALACE / CURRENTLY AMERICAN UNIVERSITY OF IRAQ-BAGHDAD

イラクの首都バグダッド。国際空港の近く、広大な人工湖の中央に、その宮殿は威容を誇っている。「アル・ファウ宮殿」、別名「水上宮殿」。1990年代、イラン・イラク戦争におけるアル・ファウ半島の「奪還」という勝利を記念し、サダム・フセインが築き上げた。周囲を水で囲まれ、石造りの豪奢なドームとシャンデリア、そして大理石の内装を誇るこの場所は、独裁者が抱いた「永遠のバビロン」への狂気的な憧憬の結晶である。しかし、2003年のイラク戦争でバグダッドが陥落すると、ここは米軍の統合軍事拠点「キャンプ・ビクトリー」の中心地となり、かつての大統領の居室は米軍将校たちの作戦会議室へと変貌した。独裁、占領、そして復興。地図上のこの地点は、イラクという国家が辿った激動の30年を静かに、しかし重々しく湛えている【残留する記憶】である。

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観測データ:人工湖に浮かぶ「砂漠の蜃気楼」

以下の航空写真を観測せよ。バグダッド国際空港の東側に、巨大な人工湖が広がり、その中央に複数の翼を持つ宮殿が確認できる。周囲の乾燥した砂漠の風景の中に、青々とした水面と緑豊かな敷地が並立する光景は、極めて不自然な幾何学を描いている。閲覧者は、ぜひストリートビューで宮殿周辺の景観を確認してほしい。独裁者のイニシャルが刻まれた壁、巨大なシャンデリア。米軍占領下では、この豪華な空間に米軍の野戦用通信機器やプラスチック製の椅子が並ぶという、歴史的な皮肉が日常的に繰り広げられていた。航空写真からは現在は確認できないが、かつての湖にはフセインが放流した巨大な魚たちが泳いでおり、米兵たちの恰好の釣りの対象となっていたという。現在、この場所は「イラク・バグダッド・アメリカン大学(AUIB)」のキャンパスとして再利用されているが、その外観は往時の独裁の匂いを色濃く残したままである。

※バグダッド国際空港隣接エリア。かつての米軍拠点「キャンプ・ビクトリー」内。
33.2843038, 44.2560679
≫ Googleマップでアル・ファウ宮殿を直接観測する

※様々な諸事情(通信環境など)によりマップが表示されないことがあります。その際は座標を直接コピー&ペーストして確認してください。

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独裁の断片:石造りの「虚飾の勝利」

アル・ファウ宮殿は、サダム・フセインという男の自己神格化がいかに物理的な質量を伴っていたかを示している。

  • 62の部屋と大理石の迷宮:
    宮殿内には62の居室があり、その多くがイラク全土から集められた大理石や、特注のシャンデリアで飾られていた。それらはすべて、経済制裁下で国民が飢餓に苦しんでいた時代に建設されたものである。
  • サダムのイニシャル:
    宮殿の装飾の至るところには、アラビア文字でサダム・フセインのイニシャルが刻まれている。米軍はあえてこれを破壊せず、独裁者の没落を象徴する「背景」として利用した。
  • 米軍の「戦利品」としての宮殿:
    イラク戦争中、ここは米軍の最高司令部として使用され、フセイン政権の幹部たちを追った「指名手配トランプ」の作戦もここで行われた。独裁者の寝室は米軍中将のオフィスとなった。
  • 教育の場への転生:
    2021年、この宮殿は「イラク・バグダッド・アメリカン大学」として開校した。かつては一握りの権力者しか入れなかった空間が、現在は学生たちの学び舎となっている。これはイラク史上、最も劇的な「空間の民主化」の一つと言える。

当サイトの考察:権力が水に映した「儚き永遠」

アル・ファウ宮殿の立地を航空写真で見ると、独裁者が何を求めていたかが透けて見えます。砂漠の中に巨大な人工湖を作り、その中心に宮殿を据える。それは自然への挑戦であり、「全能感」の顕現でした。

しかし、この場所を最も特徴づけているのは、その「使い回された歴史」です。フセインの勝利の象徴が、米軍の占領の象徴となり、現在は西洋的教育の象徴となっている。建物自体は変わらぬ石造りの重厚さを保ちながら、その主が変わるたびに全く異なる意味を背負わされてきました。

宮殿の壁に刻まれた独裁者の文字は、今や学生たちがその横を通り過ぎる日常の背景に過ぎません。権力が自らを「永遠」のものにしようと石に刻み込んだとしても、歴史の流れという「水面」はそれを容易に飲み込み、風化させてしまう。アル・ファウ宮殿は、独裁の残影というよりは、権力というものの「空虚な質量」を私たちに突きつけているのです。

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【周辺施設と紹介:バグダッドの変遷】

宮殿のあるキャンプ・ビクトリー周辺は、かつての立ち入り禁止区域から、徐々に市民社会へと開放されつつある。

■ 関連施設・見どころ:

アメリカン大学イラク・バグダッド(AUIB):
宮殿そのものをキャンパスとして使用。歴史的な建物を保存しつつ、最新の教育設備を整えている。

バグダッド国際空港(BIAP):
宮殿に隣接。イラクの玄関口であり、2020年にカセム・ソレイマニが殺害された地点としても知られる、現代史の交差点。

勝利のアーチ(ハンズ・オブ・ビクトリー):
バグダッド市内にある、フセインの腕をかたどった巨大な剣の門。アル・ファウ宮殿と並び、フセイン時代の象徴的なモニュメント。

■ 土地ならではの食べ物・土産:

マズグーフ(Masgouf):
ティグリス川の鯉を焚き火で焼くイラクの国民食。かつてフセインも愛し、現在はバグダッド市民の楽しみとなっている。

デーツ(ナツメヤシ):
イラクの名産品。砂漠の過酷な環境で育つ甘い実は、この土地の生命力の象徴でもある。
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【アクセス情報】バビロンの残影へ

バグダッドは現在、治安状況が以前に比べ改善しているが、依然として渡航には最高レベルの注意が必要である。

■ アクセス方法:

車・タクシーの場合:
バグダッド国際空港からほど近い。大学として利用されているため、許可があればアプローチ可能。

主要都市からの目安:
バグダッド市街地(グリーンゾーン等)から車で約30〜40分。ただしチェックポイントの通過に時間を要する。

■ 注意事項:

【⚠ 重要注意事項】 渡航禁止勧告:
2026年現在、イラク全土に対して多くの国が「退避勧告」または「渡航中止勧告」を出している。テロや誘拐のリスクが依然として高く、個人旅行は極めて危険である。
大学への入場:
宮殿内部は現在大学の敷地内であるため、観光目的の立ち入りは制限されている。見学には事前のアポイントメントや大学関係者の同伴が必要となる場合が多い。
写真撮影の制限:
空港近隣および政府・軍事施設に近いエリアのため、無断での写真撮影はスパイ容疑をかけられる恐れがある。必ず現地の警備兵やガイドの指示に従うこと。
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情報のアーカイブ:関連リンク

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断片の総括

アル・ファウ宮殿。人工湖に浮かぶその姿は、かつての独裁者の巨大な墓標のようでもあり、新しいイラクの希望を映し出す鏡のようでもある。航空写真に映る、水面に縁取られた石の輪郭。それは、一人の男が「勝利」を偽装するために築き上げ、そして別の勢力が「征服」の証として利用し、現在は若者たちが「未来」を語る場所となった。座標 33.2843038, 44.2560679。ここは、権力がいかに移ろいやすく、しかしその痕跡がいかに深く大地に刻まれるかを物語る、中東で最も複雑な【残留する記憶】である。

アーカイブ番号:381
(残留する記憶:100)
記録更新:2026/02/22

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