LOCATION: ALEXANDRIA, EGYPT
COORDINATES: 31.2136459, 29.8857710
STATUS: NAVAL FORTRESS / ARCHAEOLOGICAL LANDMARK
地中海の波が激しく打ち付ける、アレクサンドリアの東端。かつてそこには、世界を驚愕させた白亜の塔が聳え立っていた。「アレクサンドリアの大灯台」。紀元前3世紀に建設され、高さ130メートルを超えたとされるその巨大遺構は、度重なる地震によって崩落し、歴史の表舞台から姿を消した。しかし、1477年、スルタン・カイトベイはこの地に「要塞」を築く際、海に沈んだ大灯台の残骸を拾い上げ、その礎石として、そして壁の建材として再利用した。現在の「カイトベイ要塞」を形成する石材の一つひとつには、かつて世界の暗闇を切り裂いた光の記憶が宿っている。ここは、失われた「七不思議」が物理的な輪郭を保ちながら残留する、極めて稀有な【残留する記憶】の座標である。
空から観測する「ファロスの土台」
以下の航空写真を観測せよ。地中海に突き出た小さな半島状の先端に、正方形の重厚な要塞が鎮座している。注目すべきは、要塞の敷地そのものが、かつての「大灯台」が立っていたファロス島の突端と完全に一致している点である。航空写真からは、要塞を囲むテトラポッドの隙間に、規則的な形状をした巨大な石材が沈んでいる様子が伺えるかもしれない。これらは地震によって海へ滑り落ちた大灯台のパーツであり、要塞はそれら巨大な「遺骸」の上に、まるで蓋をするようにして建設されている。ストリートビューで要塞の壁を詳細に観察すれば、周囲の石材とは明らかに質感が異なる、大灯台由来と思われる巨大な赤色花崗岩のブロックが埋め込まれているのを確認できるはずだ。
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残留する記憶:海の底に溶けた光
カイトベイ要塞は、かつての光を閉じ込めるための「墓標」のようでもある。
- 海底の沈黙する巨人:
1994年、考古学チームが要塞周辺の海底から数千の巨大な石のブロック、そしてスフィンクスや巨像の破片を発見した。これらは14世紀の地震で海へ崩れ落ちた大灯台の一部であった。今も要塞のすぐ下の海には、歴史が「水没」した状態で息づいている。 - 赤色花崗岩の暗号:
要塞の入口の門や内部の柱の一部には、アスワンから運ばれた赤色花崗岩が使用されている。これらは10世紀以上前の大灯台の構造材をそのまま流用したものであり、要塞に触れることは、間接的に「世界の七不思議」に触れることと同義である。 - 鏡と火の伝説:
大灯台の頂上には、巨大な凹面鏡があり、太陽光を反射させて数キロ先の敵船を焼き払ったという伝説がある。要塞のテラスに立つと、当時の人々が感じたであろう「海を支配する視線」の圧迫感が、残留思念のように肌にまとわりつく。 - 消えない灯火の噂:
夜、要塞の窓から地中海を望むと、存在しないはずの光が一瞬だけ海面を撫でることがあるという。地元の人々はそれを「ファロスの亡霊」と呼び、要塞が光を必要としているのだと囁き合う。
当サイトの考察:再利用される「権威の残滓」
カイトベイ要塞の興味深い点は、新しく石を切り出すのではなく、あえて「崩れた過去」を組み込んで再構築されたことです。
スルタン・カイトベイにとって、大灯台の石材を使うことは単なる節約ではなく、かつての繁栄と威厳を要塞に取り込むための儀式的な意味合いがあったのではないでしょうか。大灯台という「光の塔」を、要塞という「守りの盾」へと作り変える。
物理的な形状は変わりましたが、海を監視し、街を象徴するという「場所の意志」は変わっていません。この座標に残留しているのは、単なる石の塊ではなく、アレクサンドリアという都市が数千年にわたって持ち続けてきた、地中海の覇者としての「プライド」そのものなのです。
【周辺施設と紹介:地中海の真珠】
アレクサンドリアは、エジプトの中でも独特の開放感と歴史の厚みを持つ都市である。
新アレクサンドリア図書館(Bibliotheca Alexandrina):
古代の知の中枢を現代に蘇らせた巨大図書館。要塞から海岸沿い(コーニッシュ)を東へ進むと現れる。その斬新な建築は、大灯台の現代的解釈とも言える。
アレクサンドリア海洋博物館:
要塞内部に併設。地中海の海戦の歴史や、沈没船からの引き揚げ品が展示されており、この海がどれほど多くの歴史を飲み込んできたかを実感できる。
モルシ・アブ・エル・アッバス・モスク:
要塞の近くに位置する、アレクサンドリアで最も美しいとされるモスク。イスラム建築の粋を集めたその姿は、要塞の無骨な美しさと見事な対照をなしている。
■ 土地ならではの食べ物・土産:
地中海のシーフード:
要塞周辺のレストランでは、獲れたての魚を塩焼きにするのが伝統。特に「シャイ・ビル・ナアナー(ミントティー)」を飲みながら海を眺める時間は格別。
パピルスの灯台画:
土産物店では、失われた大灯台の姿を描いたパピルスが多く売られている。当時の文献に基づいた想像図は、旅の記憶を補完する最高のアセットとなる。
【アクセス情報】歴史の岬へ
アレクサンドリアはカイロからのアクセスが容易であり、エジプト第二の都市として親しまれている。
主要都市からの経路:
・カイロ(ラムセス駅)から列車「スペシャル・エクスプレス」で約2時間半〜3時間。
・アレクサンドリアのミスル駅からは、トラム(路面電車)やタクシーで海岸沿いを進み、約15分で要塞に到着する。
■ 訪問の際のアドバイス:
・要塞の屋上テラスからは地中海を360度見渡すことができる。かつてここに大灯台の頂上があったことを想像しながら眺めると、より深い没入感が得られるだろう。
海岸線の強風:
要塞は海に突き出しているため、冬場は非常に強い海風が吹く。砂混じりの風が目に入ることもあるため、保護用のサングラスなどがあると重宝する。
潜水撮影の禁止:
要塞周辺の海底には多くの遺物が沈んでいるが、これらは軍の管理下および文化財保護下にあり、無許可の潜水や水中ドローンによる撮影は厳しく取り締まられる。
礼儀と安全:
観光客を狙った「自称ガイド」には注意が必要。公式の窓口以外での支払いは避け、自分のペースでアーカイブを探索してほしい。
情報のアーカイブ:関連リンク
- Ministry of Tourism and Antiquities – Citadel of Qaitbay: エジプト政府による公式案内。
Reference: Egyptian Monuments Official - The Pharos of Alexandria – UNESCO: 海底遺跡調査の記録と大灯台の復元図。
Reference: UNESCO Alexandria Archive
断片の総括
カイトベイ要塞。座標 31.2136, 29.8857。そこは、失われた「光」が「石」へと姿を変え、沈黙を守り続けている場所である。航空写真に映る波打ち際の四角い城塞は、今もなお地中海の波濤を真っ向から受け止め、アレクサンドリアの街を守り続けている。大灯台というかつての王冠は砕け散ったが、その破片は要塞の血肉となり、永遠に消えることのない意志をこの岬に刻み込んでいるのだ。ここは、過去を葬る場所ではなく、過去の上に「今」を積み上げる、人類の執念が生んだ【残留する記憶】の結晶なのである。
(残留する記憶:055)
記録更新:2026/02/21

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